フィリピン共和国の会社法は1980年に施行されてから後、長期の間改正されてきておらず、日々目まぐるしく変動するビジネス環境や実務上の要求を満たすための改正が議論されてきました。そして2019年2月20日にドゥテルテ大統領が最終的に改正案に署名をすることで最新の会社法である新会社法が施行されました。

新会社法での有名な改正点は、1人法人での設立が可能になったことや、発起人の要件緩和(法人が発起人になれる、人数制限と居住要件の緩和等)が有名なところで改正に伴う議論や理解が進んでいる点ではありますので、今回は会社のガバナンスへの取り組みが新会社法に盛り込まれた点を解説します。

 ガバナンス強化への取り組みと改正点

 1.詐欺的商法、汚職や贈収賄への関与を規制(新会社法165条、166条、167条)
新会社法では、会社が詐欺的事業や商売を行った場合や汚職や贈収賄などの違法行為に関与した場合、最大500万ペソの罰則金の納付義務を定めると同時に、会社がこれらの行為を防止するためのガバナンス強化が求められています。そして必要な措置を怠っていたという事実が、結果として詐欺的商法や汚職・贈収賄の誘因となった場合、会社の責任を追及できるとして責任範囲を拡大的に解釈しています。またその違法行為を行った取締役や従業員だけでなく、それを看過した取締役の責任も問われることとなり、会社や取締役がガバナンスに対する役割と責任を拡大させることにより違法行為の防止を目指しています。

 

 2.公益通報者に対する報復禁止(新会社法169条)
会社の法令違反や違法行為に対して、当局への通報を行う者に対する保護規定も定めています。万が一公益通報を行った者に対して報復を行った場合、10万~100万ペソの罰則金の支払いを命じることが出来ます。

 

 3.反汚職に関する取り組み等の付属定款への記載(新会社法46条)
会社の付属定款に、汚職や贈収賄行為を防止するための規定、その他のガバナンス強化の取り組みを記載する必要があります。

 

また、一定の条件を満たす会社には、独立取締役やコンプライアンスオフィサーの設置が義務付けられており、罰則規定を含めて会社のガバナンス体制が実効性のあるものにするための改正が行われました。

新会社法への対応は施行後2年以内に行う必要があります。

世界銀行のビジネス環境レポートによると、国別順位でフィリピンは124位にあり、良好な環境整備への取り組みこれからの課題と言えるでしょう。この低いランキングの主な原因は会社設立の手続きの煩雑さや役所間のリレーション不足、手続きや法解釈の一貫性の欠如、外資規制による制限などが挙げられ、ビジネス環境は改良の余地が多分にあり、まだまだ良好とは言えません。

 

ガバナンスの強化に至った背景は今まで企業側と役人との癒着や会社と顧客との間にビジネス上のトラブルが多発していたということがあり、会社へのガバナンス強化を求めると同時に、公務員に対しても冗長性や恣意的な判断の余地をなくして不正が起こらないような取り組みを始めています。