海外に現地法人や支店などの経営拠点における経営は、海外ならではの不確定要素が多く、事前の準備段階では予測しきれない障害やトラブルが発生しますが、それらは起こるまで気が付かないケースも散見されます。 したがって日本国内における経営判断より慎重で広範囲な環境予測が求められます。 財務環境において特に注意が必要なのは以下の3点です。

1.急激なインフレリスク

2.通貨の切り下げと為替リスク

3.資金調達におけるリスク

 

現在、世界各国でインフレが急激に上昇してきています。 インフレの高騰は現地調達コストや人件費を押し上げるとともに現地法人や支店の収益力の低下を招き、海外進出のメリットを打ち消してしまうリスクを内包しています。インフレの兆候やインフレ率及び原因と物価推移予測を見極めて早い段階での経営判断を行う必要があります。

インフレ予測指標は以下の通りです。

1.国家財政の状態

2.マネーサプライの動向

3.景気予測

4.民間指標 (消費動向・資金需要・在庫投資等)

5.貿易収支・国際収支・外貨準備高の変動、関税や輸出入規制

6.賃金上昇圧力

7.政策金利や政府の金融政策

8.現地の特殊事情

 

また、インフレよりもさらに直接的で重大な影響をもたらすものとして現地通貨の切り下げと為替管理が現地法人だけでなく本社にも大きな影響を及ぼす可能性があります。通貨切り下げの兆候を感じ取る指標は政策当局の発表、インフレや国際収支や経済成長など為替の切り下げに追い込む通貨環境に関する指標から読み取ることができます。 特に貿易収支・国際収支・資本収支の健全性或いはそれらが赤字である場合は、補填する方法や財源、金融引き締めによる経済への影響を予測すること、外為市場における直物と先物のレート差、国際通貨機関(IMFなど)や外貨借り入れ状況、他国とのスタンド・バイ・クレジットなどの情報を収集することで通貨切り下げの兆候を予測することが可能となります。

 

さらに海外拠点が現地で運転資金を調達する際は借入目的と手段(銀行借入、社債、現地企業借入、本社借入等)・借入期間などに留意する必要があります。

運転資金や設備投資資金などの調達は通常コストとリスクの両面での検討が求められます。

 

海外拠点を設けたときに、海外財務を管理する際の最大のリスクは為替リスクです。例えばアメリカに商品を輸出して、USドルで売掛金を回収する場合、その代金で再度日本や第三国で生産し、輸出するにはUSドルを日本円や第三国の現地通貨に両替する必要があります。この場合は常に両替時における為替リスクが発生します。また資金調達時にはさらに金利リスクがあります。現地で資金調達する場合は現地の銀行やファイナンス会社からの借入金利はその国の政策金利に影響を受けるため、一般的に日本の銀行の借入金利より高くなることがありますが、その場合は資金調達コストの上昇により利益低下の原因となることがあります。

 

海外進出は為替リスクと金利リスクが常に付きまといます。日本に置いても昨今の円安で輸入資材や原材料の高騰によりコストプッシュインフレが起こっていますが、これらのリスクを社内でどのように対処していくかが、企業イメージや信用にも直結するセンシティブな問題と言えるでしょう。

 

資金調達や海外への商品やサービスの輸出あるいは輸入する際には、常に為替を予測して、時には為替ヘッジによる為替リスクを回避するなどの対処を行って為替による経営への影響を最小限にとどめることが求められます。