日本やフィリピンの法人税率は年々低下傾向にあります。これは各国が税収確保のためにより多くの企業誘致を目指した結果として、法人税率の引き下げ競争に巻き込まれていると言えます。各国ともに増税を行って税収を確保したいというのが本音として見え隠れしているため、他の税目が引き上げられることがあります。日本では消費税や社会保険料が増税され、個人所得税の控除項目が縮小してきています。フィリピンでいえば、2023年から実施されるはずの個人所得税の減税が見送られ、PEZA企業への課税強化がなされています。

 

相続税に関して言えば、個人所得税・消費税(VAT: 付加価値税)、資産税等を支払った後の財産にさらに課税することであり、明白な二重課税として専門家からもその正当性に疑問が上がっています。 所有権と受益権を分割可能な英米法においては、財産を信託した場合、相続が発生しても現実に利益が実現するまで課税が繰り延べることも可能であり、イギリスやアメリカでは子供や親族を受託者とした信託や財団を設立すると、当面は信託財産から得られる配当や金利などのPassive Income(受動所得)にのみ課税がなされるのみであり、信託財産を取り崩さない限り、相続税を繰り延べ回避することが可能です。

相続税に関しては、その人がどの国に居住しているかという居住者認定が国際課税の基本ルールとしてあるため、例え日本人であっても国外に居住する場合は、原則的に日本は課税権を行使しないということになります。また、アメリカなどの国では日本とは異なり、贈与税や相続税は送った側が支払うこととなっています。すなわち、受贈者がアメリカ国内に居住していたとしても、贈与者がアメリカの非居住者である場合で、アメリカ国債などの金融資産を相続或いは贈与したとしても、アメリカ国内での課税されることはありません。 これら複数の国の課税基準を勘案して、贈与や相続を行う場合は誰でも簡単に租税回避スキームを実践することが可能となります。

 

また、小さな島国や地域で、これといった産業がないような地域や小国が政策として無税或いは税率を低く抑えることで金融機関を誘致し、そこに世界中から富裕層、投資家、企業の資金を取り込むことで経済活動を行っていこうとするタックスヘイブン政策をとっているところもあります。これはたとえいかに小国であったとしてもその国が主権国家として採用している無税政策に対して他国が干渉することはできないという主権国家の原理に基づき管理運営されているため、今もそれぞれの国の方針としてタックスヘイブン政策が導入されています。 税金とは納税者にとってはコストの一種だととらえることができますが、もし事業継続のためにリストラや事業の縮小による経費削減を余儀なくされる場合、それと同じ効果が税金を払わないことで得られるとしたら、同じ企業経営者として無税政策を導入してる国は、それだけで魅力的であり進出を検討する価値に値します。

 

資産運用により利益を獲得するには税金を含めたコストの安いほうが有利といえます。コストとは金融機関やコンサルタントに支払う手数料、それと税金の総額といえるでしょう。合法的に税金を払わなくてもよい方法があるとしたら、その分だけ確実に手元に残る資産は増大し、それがさらなる富をその国に呼び寄せることとなります。 各国は法規制によりその流れを断ち切ることはできずに、反対に資産の流出や税収減を食い止めるために、金融資産税や法人税率の引き下げを行わざるを得なくなります。これを税の裁定(タックスアービトラージ)といいます。

 

タックスヘイブン政策は間接的に他国の税収や資産を奪うことになりかねないため、これを有害税制だとして批判されることがあるものの、無税政策によりその国の経済と人々を支えているという現実がある限り、無税政策は継続され資金は税率の低い「楽園」を求めて移動していくこととなり、各国はそういった国の無税政策を批判しながらも、自国の税収の維持と資金流出を食い止めるために税率の引き下げを余儀なくされることとなります。