フィリピンにおける税効果会計は会計基準第12条(PAS12)において定められています。繰延税金資産および負債は、報告期間の末日までに将来的または実質的に制度化された税法等に基づく税率に基づいて、将来の会計期間に適用されると予想される税率で測定し計上されるものと規定されています。
繰延税金資産(DFA : Deffered Tax Assets)とは以下の通りです。
(a) 控除可能な一時差異(Deductible Temporary Differences)、
(b) 未使用の税務上の欠損金の繰越(The Carryforward of Unused Tax Losses)、
(c) 未使用の税額控除の繰越に関して、将来の期間に回収可能な所得税の金額 (The Carryforward of Unused Tax Credits)
最も一般的な一時差異は、予想信用損失 (ECL : Expected Credit Losses) にかかる引当金です。 ECL にかかる引当金を計上する場合、対応する費用が財務諸表で認識されます。ただし、これは控除の対象にはなりません。RR No. 5-99 において、有効な不良債権控除の一般的な要件として、(1) 有効かつ法的に請求可能な既存の負債があること (there must be an existing indebtedness which must be valid and legally demandable)、(2) 納税者の事業に関連していること( it must be connected with the taxpayer’s business)、(3) 課税年度末時点で帳簿上で実際に償却されていること(it must be actually charged off in the books as of the end of the taxable year)、(4) 課税年度末時点で実際に無価値かつ回収不能であること (it must be actually ascertained to be worthless and uncollectable as of the end of the taxable year)、が確認されていることと明記されています。
CREATE法の成立に伴い、繰延税金資産/負債の測定において税率の変更を考慮することが求められています。繰延税金資産/負債をそれぞれの会社における将来適用されると予想される税率で適正に再測定するには、経営陣が実現可能性または決済のタイミングについて合理的な仮定と見積りを行う必要があることが重要な要素の 1 つとなっています。
ただフィリピン会計基準は時として税規則との矛盾を抱えることがあり、納税者はどちらの規則に従うべきかという大きな問題に直面します。一例として、RR No. 21-2002の例をご紹介いたします。この通達では、内国歳入法第 6 条 (H) に基づく納税申告書類に添付する財務諸表の作成および提出に関する追加の手続きおよび文書要件が詳述されています。
上記の税務規則では、財務諸表の明細項目は、それを見る者にとって取引の性質や内容が明確になるように詳細に示されなければなりません。使用する勘定科目は具体的かつ完全に列挙されている必要があります。
損益計算書の作成時においては、以下の項目を個別に表示する必要があります。
- 売上原価(商品販売者の場合)/役務提供原価(役務提供者の場合)(Cost of goods sold (for seller of goods)/Cost of services (for seller of services)
- 販売費および一般管理費 (Selling and administrative expenses)
- 財務費用 (Financial expenses)
- 特別控除(純営業損失繰越等)(Special deductions (e.g., Net Operating Loss Carry-over , NOLCO)
- 特別法による控除 (Deductions under special laws)
3、4、5の控除については、監査済みFSの注記で十分に説明する必要があります。
上記のRR No. 21-2002 の税規則は、税務控訴裁判所 (CTA) が、納税者の繰越損失(NOLCO) が財務諸表での記載が裏付けられていないことを理由に損金算入不可とする判決を下す際に使用した根拠です。納税者と税務当局との係争を扱うCTAがNOLCOの損金算入を認めなかった理由の1つは、監査済み財務諸表の注記でNOLCOが開示されているにもかかわらず、NOLCOを控除申請された年度の損益計算書において特別控除として表記していなかったというものでした。
税規則において監査済み財務諸表で NOLCO を特別控除として表示することを要求するのは国際財務報告基準やフィリピンにおける会計基準との矛盾を生じさせているため適切な会計処理ではありません。これはフィリピン会計基準 (PAS) と矛盾しています。
NOLCOは、総所得(Gross Income)を超える損金超過額(excess of the allowable deductions over the gross income)であり、PAS12に準拠した未使用の税務上の過年度の欠損金の「繰り越し」であるため、繰延税金資産 (DTA) が認識されます。ただし、このDTAは、未使用の税務上の欠損金が適用できる可能性が高い範囲でのみ認識されます。
会計基準に則した考え方をすると、納税者が過年度に繰越欠損金(NOLCO)を認識計上した場合、結果として生じるNOLCOの税効果分 (20%~25%) が 繰延税金資産 (DTA)の借方として、また税費用又は便益を貸方に仕訳記録されます。繰延税金資産 (DTA)は貸借対照表に表示される勘定であり、所得税費用又は便益は損益計算書に営業外項目に表示されます。
会計基準においては、当期の損益計算書上には過年度に発生した損失等は含まれません。NOLCOが税務上の控除として適用または請求された場合、税効果会計が適用されている場合は、DTAは貸方に仕訳記録され、税費用を借方仕訳で記録されます。そのため所得税申告書のNOLCOの金額は、RR No.21-2002で要求されているように損益計算書に反映されることはありません。
フィリピンにおいて、繰越欠損金(NOLCO)のような控除は税の減免特例と見なされ、納税者に不利な厳格法理で解釈されるというのは、この国の税務手続きにおける原則です。したがって、納税者は、関連法規に則した表記だけでなく事実証明及び文書における根拠の所在を適格に証明する必要があります。
上記の税規則 RR No. 21-2002は、SEC が承認したフィリピン会計基準(PAS)に違反しているため、結果的にBIRの税規則に従う納税者はSECの会計規則に違反することになります。
このようなフィリピン税制の不合理さや会計実務との不整合は各箇所に散見され、税務と会計の不調和と会計税務の混乱と複雑化を招いています。そのため会計基準と矛盾する税規則や実務を煩雑にしている法令規則や手続きは再検討或いは修正されるべきですが、上記の税規則は20年以上前に施行され発行され、未だに改定がなされておらず、多くの物議を醸す税制要件の 1 つになっています。
現在進行中の包括的な税制改革プログラムの目標は、よりシンプルで公平かつ効率的な税制を目指すことです。これは、あらゆる納税者の参加を促し、継続的かつ統合的な政策レビューに取り組めるよう立法者と政策立案機関に訴えるものでなくてはなりません。健全で透明性のある政策を構築し、どのようにそれを維持発展させていくかについて議論を重ねていくことは、納税者を含むすべての利害関係者にとって大きな関心事であるべきでしょう。