監査済財務諸表(AFS)とは
監査済財務諸表(AFS:Audited Financial Statement)は、企業の財務状況を詳細に示す包括的な報告書であり、独立した監査人によって作成されます。これは、企業の財務記録の正確性、完全性、そして関連法規・会計基準への準拠を保証するためのものです。
AFS には、貸借対照表(バランスシート)、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などの主要な財務情報に加え、一定期間(通常は会計年度)における企業の財務状況や事業活動を反映する関連開示事項が含まれます。
AFS の目的は、企業の財務状態を信頼できる形で示すことであり、投資家、金融機関、規制当局、経営陣などの利害関係者にとって極めて重要です。監査によって、財務諸表が関連する会計基準に従って作成されており、誤謬や不正による重要な虚偽表示が存在しないことが保証されます。
監査済財務諸表(AFS)の導入背景
AFS は、企業報告における透明性と信頼性を高めるために導入されました。特に、過去の財務スキャンダルを受けて、より厳格な財務開示と説明責任の基準が必要とされたことが契機となりました。
その後、世界各国で AFS の提出を義務付ける規制が整備され、フィリピンでも国税庁(BIR:Bureau of Internal Revenue)および証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)が、特定の企業に対して AFS の提出を義務づけています。
これらの要件は、フィリピンの金融市場に対する信頼を維持し、健全な財務慣行を企業に促すことを目的としています。
フィリピンで監査済財務諸表(AFS)の提出が義務付けられる企業
フィリピンでは、すべての企業が AFS の提出を義務付けられているわけではありません。BIR および SEC は、AFS 提出義務の対象となる企業の基準を明確に定めています。
一般的に、AFS 提出の要否は企業の収益規模、資産規模、法的形態によって判断されます。主な基準は以下の通りです。
法人およびパートナーシップ(合名・合資会社など)
SEC に登録された法人またはパートナーシップ企業は、規模に関わらず AFS の提出が義務付けられています。
外国法人の支店(Branch Offices of Foreign Corporations)
フィリピン国内に支店を持つ外国企業も AFS を提出する必要があります。
一定の収益・資産基準を超える事業体
年間総売上高、所得、または収入が PHP 3,000,000(300万ペソ) を超える企業は、BIR に対して AFS の提出が義務付けられています。
また、SEC への提出義務は、株式会社(フィリピン現地法人)の場合は総資産が PHP 600,000(60万ペソ)を超える、または 外国法人のフィリピン支店や駐在員事務所或いは非株式外国法人の場合は総収益が PHP 1,000,000(100万ペソ)を超える場合に発生します。
その他、法令により提出が求められる団体
非営利団体(non-stock non-profit organizations)など、組織の性質や活動範囲によっては、法的に AFS の提出を求められる場合があります。
これらの基準は、経済への影響が大きい企業に対して、より厳格な財務報告基準を適用するために設けられています。
一方で、小規模事業者については、上記の基準を超えない限り、通常は AFS 提出義務の対象外となります。
BIR(内国歳入局)とSEC(証券取引委員会)のAFS提出要件の違い
BIRとSECの両方が監査済財務諸表(AFS: Audited Financial Statement)の提出を求めていますが、それぞれの要件にはいくつかの違いがあります。
提出期限(Filing Deadlines):
BIRとSECではAFSの提出期限が異なります。企業はこれらを慎重に確認し、期限を守らなければ罰則を受ける可能性があります。
形式および添付書類(Format and Attachments):
BIRとSECでは、AFSの提出形式や添付が必要な書類に違いがあります。
たとえば、BIRは法人の場合、SECで「受領済(received)」のスタンプが押されたAFSの提出を求めます。
一方で、SECは一般的な様式(general form)や独立監査人による証明書(certification)など、追加の要件を設けています。
追加提出要件(Additional Filing Requirements):
SECでは、経営者の責任に関する声明書(Statement of Management’s Responsibility)や、資本および留保利益(equity and retained earnings)に関連する特定の書類など、BIRでは必須でない追加の財務開示を求めています。
これらの違いは、それぞれの機関の目的の違いを反映しています。
BIRは主に**税務コンプライアンス(tax compliance)を目的としており、
SECは企業統治(corporate governance)および公的な透明性(public transparency)**を確保することを重視しています。
監査済財務諸表(AFS)の提出方法
以下は、関係当局にAFSを提出するための詳細な手順です。
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AFSの作成: 
 公認会計士(CPA)の資格を持つ認定監査人が、フィリピン財務報告基準(PFRS: Philippine Financial Reporting Standards)に従ってAFSを作成します。
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必要な証明書の取得: 
 経営責任声明書(Statement of Management’s Responsibility)に会社の責任者が署名し、独立監査人による監査報告書に正式な署名を得ます。
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BIRへの提出: - 
AFSおよび会社の年次所得税申告書(ITR)をBIRに提出します。 
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法人の場合、SECで「受領済」スタンプが押されたAFSを提出します。 
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該当する場合、電子提出(e-filing)の際はBIR指定のフォーマットに従います。 
 
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SECへの提出(File with the SEC): - 
SECの形式および添付書類のガイドラインに従ってAFSを提出します。 
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法人は「経営責任声明書(Statement of Management’s Responsibility)」にスタンプを押し、独立監査人の監査報告書を添付します。 
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SECは電子提出システム(eFAST)または指定支部での手動提出を受け付けています。 
 
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受領確認(Receive Acknowledgment): 
 提出後、BIRおよびSECから受領確認書や受理証明書を取得し、コンプライアンスの証拠とします。
監査済財務諸表(AFS)の提出期限
企業は罰則を避けるために、AFS提出期限を正確に把握する必要があります。
BIR提出期限:
会計年度末から4か月後の15日までにAFSを提出する必要があります。
(暦年会計年度を採用している場合、通常は4月15日が期限)
SEC提出期限:
SECの提出期限は、法人登録番号の末尾の数字に基づいて段階的に設定されています。
一般的には、提出期限は4月の最終2週間に割り当てられ、各番号区分によって具体的な日付が異なります。
企業は、SEC(証券取引委員会)およびBIR(内国歳入庁)が、祝日や自然災害などの状況に応じて提出期限を変更する特別な覚書を発行する場合があるため、最新の期限を必ず確認することが推奨されています。
財務諸表(AFS)の遅延提出または未提出に対する罰則
AFS(監査済み財務諸表)を期限内に提出しなかった場合、または提出しなかった場合には、重大な罰金や制裁が科される可能性があります。主な罰則は以下のとおりです。
BIR(内国歳入庁)の罰則:
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提出の遅延に対して、1か月あたり1,000ペソの罰金(最大25,000ペソまで)。 
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さらに、**基本税額の25%**の追加課徴金が課されます。 
SEC(証券取引委員会)の罰則:
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遅延提出の場合、会社の資産規模に応じた段階的な罰金制度が適用され、500ペソから10,000ペソ以上の範囲で科されます。 
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未提出の場合、罰則はさらに厳しくなり、会社のSEC登録の停止または取り消しに至る可能性もあります。 
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AFSを提出しない場合、さらなる調査の対象となり、より厳しい行政的または法的措置が取られる可能性があります。 
