フィリピンの現地法人から日本の親会社に、或いは日本の親会社からフィリピンの現地法人に役務の提供、ロイヤリティ、利息、配当の支払、知的財産権の使用権、不動産所得、国際運輸費などの名目において相手方の国に支払うケースがあります。それらの取引はそれぞれどちらの国において源泉が発生したかを正確に把握することが求められ、源泉が発生した国において課税されることとなります。

しかしながら、国をまたぐクロスボーダー取引において本来的に日本における源泉所得であっても、相手方の国の税制に基づき課税されることがあり、その場合、双方の国に対して納税義務が発生するという二重課税の問題があります。 二重課税による税負担を軽減する目的で各国との間で租税条約が締結されているため、会社や個人が負う税負担の軽減につながる日比租税条約への理解を深めることは海外進出する日系企業にとってとても意義のあることです。

日本法人がフィリピンにおいて役務の提供やロイヤリティの収益が発生すると本来は日本法人に納税義務が発生します。しかしながら外国法人に対するBIRによる徴税能力の限界や具体的な収納プロセスを有しない実務上の問題点を解決するために、BIRは支払者である内国法人や居住外国法人に対して、源泉徴収義務を課すこととなります。そのためフィリピンの現地法人が本来日本法人が負担すべき税金を支払額から源泉徴収という形で控除をおこない、日本法人に代わって納付することとなります。

 

一部手続きの簡素化

日比租税条約の適用を受けるためには、BIRの定める所定の様式と手順に従い適用前に申請を行う必要があります。この手続きが行われない場合、BIRは租税条約の適用を認めないという厳格な姿勢を崩していません。2017年3月2日に租税条約の申請に係る一部手続き簡素化のルール改正(RMO 8-2017)が行われています。配当、利息、ロイヤルティ取引の際の租税条約適用のための書類要件と手続きが簡素化されています。

 

注意点

租税条約の適用に関して、以下の点に注意が必要となります。

1.事前申請が原則
事前申請の時期は支払或いは未払金が計上される時のどちらか早いほうの時点の前に申請が提出されている必要があります。申請は事前申請が原則ではあるものの、BIRによる承認プロセスは数年の時間がかかることとなります。そのため、実務上の手続きとして申請を行った後その取引を行い、承認されることを前提として取引及び課税関係の処理を行うことが一般的といえます。承認か否認かの判断が下されるのは数年先となります。万が一否認された場合、その取引にかかる追加の納税を速やかに行うこととされ、その場合、否認された部分にかかる二重課税の回避は難しくなると言えるでしょう。
2.申請は取引ごとに行う
日比租税条約を適用するための申請は取引ごとに行うこととされています。一連の取引であったとしても支払いが数次に及ぶ場合には、それぞれの支払にかかる取引内容を案分或いは合理的基準で算定し、支払ごとに個別に申請が必要となります。
3.移転価格の文書化
親子会社や兄弟会社間取引など関連当事者間取引において、原則的に第三者間取引同様の価格決定プロセスと取引の妥当性を示すための移転価格文書の作成と保存が義務付けられています。税務調査時だけでなく租税条約申請時にも移転価格文書の提出が求められることもあり、移転価格文書の作成と保存の重要性は高まりつつあります。