2020年7月10日に発表されたフィリピンにおける移転価格税制の概念は古くから法概念として明文化されていました。最初に施行されたのは1939年6月15日に施行された連邦法466号第44条に規定されていました。それから長きにわたりそれは単なる法概念としてのみ存在しており、法制度化されることはありませんでした。その概念が法制度化に向けて動き出したのは2008年3月にRMC26-2008において、移転価格税制に関する国内規定が発表されるまでの間、OECDが発表した移転価格ガイドラインに基づき解決されることとする指針を公表するとされました。

その後BIR(内国歳入庁)は、明文化された法整備が行われていない時期において、OECDガイドラインに基づき関連企業或いは移転価格税制認定要件を満たさない企業に対しても、関連企業と推認し移転価格税制を適用された例がいくつもあります。

いくつかの例として、親会社から購入した製品や原料の市場取引価格より過大計上されていたり、ロイヤルティ或いはその他の支払いが必要性または合理性を欠く取引から生じた支払い、外国関連企業に対する売上金額が市場価格より低い場合、海外関連企業に請求される手数料が市場取引価格より不当に低い場合或いはその価格に関する正当性を立証できなかった場合などがあります。

2013年1月23日、BIRは正式な移転価格ガイドラインをRR02-2013により公表しました。公表されたガイドラインは国外関連企業に対してだけでなく、国内関連企業に対しても適用されるという特異性を有しています。その理由は、税特権を受ける国内関連企業と通常企業との間で取引が有利性を持つ会社にシフトされている問題に対処する必要があるためです。フィリピンにはBOIやPEZAなどの税制優遇を享受できる経済特区や投資優遇制度に基づき設立された会社が多数存在しますが、通常課税される法人が併設される場合、売上を税特権を享受できる会社にシフトさせ、一方で発生する費用を通常法人に付け替えるという手法により政府は税収上の損害を認知していました。

そのため、移転価格税制の適用はそれら会社に対して同時期でなければいけません。或いは関連企業が事業運営開始とともに適用されるべきものでなくてはいけないという考えのもとに新ガイドラインが制定されています。

BIRがフィリピン独自の移転価格監査ガイドラインは2019年8月、BIRよりRMC1-2019が公表されています。関連する当事者や企業内の支配権が行使されうる関連取引を監査し、監査の質を高めるための標準化された監査手順と手法を示しています。

このガイドラインはフィリピンで少なくとも1つの当事者が課税対象または課税対象となる関連当事者間の取引に適用されます。移転価格設定の目的で、支店と本社、およびグループ内の他の支店または子会社との取引も移転価格ルールの対象となります。

監査中に、関連企業間における取引価格またはマージンが公正価格の原則に従っていないことがBIRの調査によって判明した場合、公正な価格やマージン、または公正金利に置き換えることによって価格調整が行われます。

 

そして2020年7月8日、RR19-2020により移転価格関連文書の提出義務化が公表されています。これは今年の4月30日決算を迎える法人から適用されます。

BIRは今後どのような場合においても移転価格を含めた監査が可能となりますので、関連取引を行っている企業や関連会社が移転価格税制の適用を受ける場合には文書化に留意が必要となります。