フィリピンの税制は、どのようなルールや法律であっても絶えず変更や改正がなされる可能性があるため常に注意深く変更点を意識しておく必要があります。
法律であれ行政命令であれ、これらの変更や改正は、公平かつ経済的合理性があり改正税制が社会にとって効率的であり、それが国民と政府の両方の利益にかなうものであれば、健全な税制であると言えます。
新しい税制の改正法案は、上院下院を通過する際に議員によって審査されることとなります。歳入規則などの行政命令は、内国歳入庁長官の勧告に基づいて財務長官によって発行されます。Revenue Regulationは税法を施行する主要な行政命令であり、税務の実務者にとって業務の指針となるため、憲法やその他の規則や会計基準が税制との間で矛盾が生じていないかを客観的に議論されるべきものです。
しかしながら長年、税制を観察してきた立場からの意見として、規則が厳格で実務に適応していないケースや非現実的、或いは会計基準との矛盾が生じてしまい、準拠することによる弊害が生じる税制や、政府が達成しようとしている目的と乖離してしまう税制なども存在します。今回はその一例として、Revenue Regulation 21-2002を提起したいと思います。この通達では、税法第 6 条 (H) に基づく納税申告書に添付する財務諸表の作成および提出に関する追加の手続きおよび文書要件が詳述されています。
この RR において、財務諸表(FS : Financial Statements)で使用される勘定項目は、FSを見る者や利用する者にとって取引の性質や会社の実態が明確になるように具体的且つ十分な情報が掲載されている必要があります。使用される勘定科目や情報は、証券取引委員会(SEC)、フィリピン中央銀行(BSP)、保険委員会(IC)など、監督機関の規則等の諸要件にも準拠していなければなりません。
さらに、以下の項目は損益計算書に次の項目を個別に表示する必要があります。
(1) Cost of goods sold (for seller of goods)/Cost of services (for seller of services)
⇒売上原価(商品の販売者の場合)/サービス原価(サービスの販売者の場合)
(2) Selling and administrative expenses
⇒販売費および一般管理費
(3) Financial expenses
⇒財務費用
(4) Special deductions (ex : net operating loss carry-over or NOLCO)
⇒特別控除(営業繰越損失または NOLCO)
(5) Deductions under special laws.
⇒特別法に基づく控除。
項目(3)、(4)、(5)に基づく控除は、監査済み財務諸表の注記表にて丁寧かつ具体的に明示する必要があります。
しかしながら監査済み財務諸表で 繰越欠損金 (NOLCO) を特別控除として表示することを税制で要求するのは会計基準の立場からは適切な処理ではありません。なぜならこの法令はフィリピン会計基準 (PAS) と明らかに矛盾が生じています。
NOLCOは、発生した会計期間以降の会計期間における税務上の所得からの控除可能額であり、PAS12「所得税」のSec. 5 (b) に記載された税務上の損失の「繰り越し」であるため、本来であれば繰延税金資産 (DTA) と見なされますが、この DTA は未使用の税務上の損失を次期以降に適用可能性の高い範囲でのみ認識が許容されます。
納税者が次期以降に使用可能性が高いと認識した場合にのみ、 NOLCOから生じる所得税効果 (20%~25%) が DTAの借方と所得税費用の貸方として記録されます。DTAは資産として貸借対照表に表示されるべき勘定項目であり、所得税費用は損益計算書や包括利益計算書に反映されますが、通常の費用としては反映されません。
さらに、国際財務報告基準及びフィリピン会計基準では、損益計算書に表示される費用項目には前年以前に発生した損失等は表記さえれません。NOLCO が税務上の控除項目として損益計算書に記載された場合、税務上の繰越損失から生じる繰延税金資産(DTA)や所得税費用を計上すべきとする会計基準との間で矛盾が生じることとなります。本来の会計基準の観点からは所得税申告書上の繰越損失 (NOLCO)は、Revenue Regulationで要求されているように損益計算書に反映されることはありません。
NOLCOなどの所得控除項目は納税者にとって有益特典と見なされ、フィリピンにおける税務法理は納税者に不利な項目は厳格法理で解釈すべし原則に基づき、証拠の具備や税務要件を完全準拠することを条件として所得控除が認められます。したがって、納税者は自らの控除の根拠となる事実を適切な徴憑や証明力のある文書にて証明する必要があります。税務法理における証明責任は民法上の規定に基づき、税務否認による課税要件事実を提示して否認指摘の立証責任は税務署側にあるという原則論は日本においてのみ通用する法理であり、フィリピンやEUなどでは認否指摘事項が課税要件に該当しないことを証明する立証責任は納税者側に転嫁されるということが税務調査手続きを複雑にしています。
Revenue Regulation 21-2002 (RR21-2002)は SEC が承認したフィリピン財務報告基準評議会が発行した会計基準に反するため、逆説的に、BIR 税規則に従う納税者は SEC 会計規則に違反することになります。
税制のこのような不合理性は随時見直しをする必要がありますが、残念ながら、この税務規則は2002年に施行され、20年以上にわたって納税者の財務諸表の会計規則との矛盾を生じさせてきました。しかし、この規則は今まで施行されてきた多くの不可解な税制要件の 1 つにすぎません。
いびつな税務規則による誤った課税方針をいどのように是正していき、会計基準やその他の法令との矛盾を回避しつつ整合的な法令改正を進めて国際社会に受け入れられる税制の施行とプラクティスを行っていくことはフィリピン国内の納税者や税務当局者等を含むすべての利害関係者にとっての大きな課題となっています。