日本市場が飽和状態を迎えるとともにこれからは少子高齢化とともに市場が縮小していくことを考えると、日本企業の海外進出は避けられない状況と言えるでしょう。しかしながらいかに日本国内で大きな市場シェアを持っていたとしても、海外に出れば一からの積み重ねが求められます。しかしM&Aを活用することで市場参入とシェア獲得までの時間と労力が劇的に省略されるだけでなく、資本提携により現地企業と協力関係を構築することが出来れば、参入に向けての大きな支援が期待できます。
また新興市場で誕生した企業が急速に存在感を増していることもあり、こういった企業を自社のグループに迎え入れることが出来ればその市場への大きな足掛かりとなるだけでなく、国境を越えたM&Aの影響力により世界戦略への布石となりえます。
ベインアンドカンパニーという会社は独自のM&Aに関する研究において、最もM&Aが有効に効力を発揮するのは規律あるシステムと再現可能な独自のM&Aの手法を編み出すことだと結論付けています。すなわち、M&Aとは全く企業文化や風土、運営方針の異なる企業同士が一つの企業グループとして機能を発揮するためには、運営に関する規律の確立が重要であり、その規律にグループ内企業は従うことを求めていくことと、最大効率を発揮する企業選定やM&Aの手法、買収の是非をめぐる判断基準について成功率の高い方法を見つけ出さなければならないとしています。それを「再現可能なM&Aビジネスモデル」と称していることからもわかるようにそのM&Aの手法が特定の会社のみに有効な手法ではなく、それを何度も繰り返し再現できるところまでM&A手法を確立しなければならないとしています。
上述のベインアンドカンパニーは利益を生み出し続けている企業の企業価値についての調査において「持続的価値創造企業」という独自の名称を用いて説明しています。持続的価値創造企業とは、売上、利益ともに年率5.5%以上の成長がある企業群のことであり、同時に資本コスト以上のリターンを上げている企業のことでもあります。持続的価値創造企業と位置付けた企業10社のうち9社はM&A市場での動きが活発で、これらの企業群以以外の2倍の確率で時価総額の少なくとも75%の価値をM&Aにより生み出していることが明らかになっています。M&Aに関する膨大なデータから得られた事実を基に買収を頻繁に繰り返す企業の方がM&Aを行わない企業よりも高い利回りを獲得するという結論が得られています。そして視点を国内に移すと日本企業の内部留保は過去最高を記録しており、また銀行預金だけでなく国債やその他の証券を保有していたとしても期待利回りも低く推移しており、それと同時に外国人株主などの利益や配当に対して厳しい視点を持つ投資家からの期待に応える必要に迫られている現代の企業に対する経営環境も過酷なものになりつつあり、そのような中において現代の経営環境に応えるべく有効な手法の一つとしてM&Aに対する期待値も高いとされます。「M&Aは過剰資本、低金利、投資家期待の環境においてM&Aは企業の成長目標を達成可能にする」と言えるのではと思います。
会社にとって良いM&Aを考える
会社にとって良いM&Aとなるのは買収先の企業が会社の運営方針や戦略に沿ったものである必要があります。運営方針や戦略とは、会社の目標をいかに達成していくかというロードマップを示したものであり、自社が今後どの市場に参入していくかということを決定し、参入する市場で競合と戦って勝ち残っていくためには、自社の商品やサービスの差別化が必要となってきます。そしてすべての企業が目指すべき勝利の戦略とは、その市場においてリーダーシップを発揮することにあります。ある市場における第一人者になるということは、ブランド力や価格支配力、差別化戦略などその市場から得られる経済価値が最も高いことを示すだけでなく、売り上げに対するコスト割合を低く抑えることが出来るという付帯的価値を生み出すことにも繋がります。それゆえ資本利益率でみると業界をリードする企業は追随する企業の2倍の業績を達成しています。